【対談レポ】パタゴニア社長・辻井隆行さん「これからは商品スペックと使命をセットで買う時代」

パタゴニア・辻井隆行さん × ファクトリエ代表・山田敏夫

STORY(特別対談企画)
(パタゴニア・辻井隆行さん × ファクトリエ代表・山田敏夫)

-辻井隆行さん(パタゴニア日本支社長)

1968年東京生まれ。
会社員を経て、早稲田大学大学院社会科学研究科修士課程修了。

1999年、パートタイムスタッフとしてパタゴニア東京・渋谷ストア勤務。 2000年に正社員として鎌倉ストアに入店後、マーケティング、卸売り部門などを経て09年より現職。
入社後も長期休暇を取得し、グリーンランド(2003年)、パタゴニア(2007年)でシーカヤックと雪山滑降を組み合わせた旅を行うなど、自然と親しむ生活を続ける。
趣味は、シーカヤック、スノーボード、サーフィン、読書。
2014年より、長崎県の石木ダム建設計画見直しを求める活動 (ishikigawa.jp)を通じて、市民による民主主義の重要性を訴える。
https://www.patagonia.com/japan/

▼山田:
辻井さん、本日はよろしくお願いします!

▼辻井(敬称略):
よろしくお願いします。僕、誕生日にプレゼントでファクトリエのリジットジーンズを頂いたんですよ。裾上げに出すのが遅れて今日はいて来られなかったんですけど(笑)。

▼山田:
ありがとうございます。笑
パタゴニアといえば、ダウンだと思って、今日私もダウンを着てきました。

▼辻井:
ありがとうございます。
パタゴニアはファクトリエさんと同じように衣類を作って販売しているので、まず製品について知っていただけることは嬉しいことなんですが、今日は「製品」そのものについてではなく、大切にしている「こだわりや使命」についてご紹介できればと思います。

■パタゴニアのミッション・ステートメント
最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する。

▼山田:
パタゴニアという会社、そしてパタゴニアの製品は、とてもメッセージ性が強いと思います。そのなかで、どのように製品を作られているのですか?

▼辻井:
僕が思うのは、今の社会は、例えば何かを買おうとしたときに、その製品がどんなこだわりを持って作られたか、またそのこだわりを持った製品を販売している企業が何を成し遂げようとしているかがとても分かりにくい社会だと感じます。
なんとなく、製品そのものと、こだわりとか使命みたいなものの間に分厚いカーテンがあって、そこを開けるとファクトリエみたいなすばらしいストーリーがある場合もあれば、本当に目を覆いたくなるような現実がある場合もあります。いまは、むしろそっちの方が多いと思います。
製品のスペックって大事じゃないですか。必要だから買う訳だし、欲しいと思っているジーンズの形があるから履きたいと思う訳で。
でも僕は製品のスペックだけではなくて、そのこだわりや使命もセットで大事だろうと思うんです。製品のスペックはネット等で調べればだいたい分かるけれど、こだわりや使命はなかなか見えにくい。

▼山田:
そうですね。いまの多くの流通は、作り手と使い手の間に距離が遠すぎていて、こだわりとか使命はなかなか消費者に届きにくくなっていると感じます。

▼辻井:
そうなんですよね。僕は話のたねに一度だけやってみようと思って、何年も前にコンビニでパンを買ったときにレジで、「すみません、このパンの小麦はどこの誰がどんな思いで育てたんですか?」って聞いたみたことがあるんですよ(笑)。

▼山田:
コンビニで、そんなこと聞いたんですか?

▼辻井:
はい。店員さんにはすごく嫌な顔されました、当然ですよね(笑)。
でも多分150年前くらいは分かってたと思うんですよ。
例えば大福を食べるにしても「その原材料の小豆はどこどこの誰々さんが大事に育てたもので、どこどこのおばあちゃんが作ったんだよ」とか。
顔やストーリーが見えることは当たり前だったのが、流通が複雑化して、効率化されていく中でだんだん見えなくなっていって。僕はこれから次の世代のとか、そのまた次の世代とかの人たちが幸せに暮らしていくためには、このカーテンが開け放たれる必要があるのかなと思っています。

▼山田:
まさにファクトリエでも、そのカーテンを取り除こうとしています。パタゴニアにおける、こだわりっていうのは何でしょうか?

環境負荷の少ない素材を活用

環境負荷の少ない素材を活用

▼辻井:
たくさんあるので、二つだけ紹介しようと思うのですが、一つ目は今、地球上で手に入りうる環境負荷の最も低い素材を使う、もしくは開発することにチャレンジしています。まだ100%できていないですけどね。きっかけはコットンなんですよ。
山田さんはコットン畑に行ったことはありますか?

▼山田:
いえ、行ったことないんです。港で輸入される原綿を受け入れに顔を出す程度です

▼辻井:
ですよね。山田さんも今日シャツを着ていますけど、コットンはほぼ100%輸入品です。 メイドインジャパンと記載があるとすれば、それは日本の製法工場で縫われましたということです。コットンそのものはインドやトルコ、アフリカ、テキサスや中国といった国々で栽培されています。
僕たちは1988年にボストンに直営店を出したんですけど、オープンして3ヶ月で働いているスタッフが体調不良になったんです。何でだろうと調べたらお店の換気扇が壊れていた。でも普通換気扇が壊れても体調不良にならないですよね。原因はストックで置いてあったTシャツからホルムアルデヒドが空気中に放出されていたんですよ。 コットンは体や環境に優しいと思っていた僕たちは、みんなでツアーを組んでコットン畑を見に行きました。そこで驚くべきことが見つかりました。 コットンは穀物で育て方は野菜と同じなんですが、1992年当時、耕地面積で地球上のたった1%に過ぎないコットンだけに、全世界で使われている殺虫剤の4分の1が使われていたんです。一番驚いたのが、働いている人たちが毒ガスマスクをしていたことです。 コットンを紡ぐときに不純物が混じっているといい糸ができない。枯れ葉もその一つです。だから、収穫から逆算して枯れ葉剤を撒いて先に葉を落としてしまうんです。 枯れ葉剤の主成分は第二次世界大戦時に使われた神経兵器と変わりません。いくら希釈率が低いとは言え、農家の方々の健康には重大な被害を及ぼすんです。

▼山田:
今インドやトルコ、アフリカで年間数万人もの方がコットンを育てている中で亡くなっていると先日伺いました。

▼辻井:
そうなんです。
殺虫剤や農薬、枯葉剤が原因で重い病気にかかったり、インドでは自ら命を絶つ農業従事者も多いそうです。聞いたことがあるかもしれませんが、遺伝子組み換えの種と農薬を売っている会社が同じで、毎年その種と農薬を買わないとコットンが育たないようになっている。でも経済的な理由で種が買えない方々が多く、借金の担保にしていた土地を奪われて家族が養えない農家さんが命を絶つ例が少なくないそうです。

▼山田:
ですが、コットンはパタゴニアの洋服でも使われていたんじゃないですか?

▼辻井:
1992年当時、売り上げの5分の1がコットン製品でした。
でも、当時僕たちがコットン製品を作る原材料になる程度のオーガニックコットンすら存在していなかった。オーガニックコットンはお金がかかるんですよ、虫は手でとって、今は機械を使っているところもありますが、手で収穫して・・・人手もいるし先行投資が必要です。そんな状況の中、パタゴニアでは創業者のイヴォン・シュイナードを中心にどうするかを協議をして、コストは上昇することは承知の上でオーガニックコットンしか使わないと決めました。そして、96年からは僕たちが販売しているTシャツやジーンズなど、すべての製品で使用しているコットンは100%オーガニックコットンに切り替えました。 こんなことがあれば、他の素材は大丈夫なのかということになりますよね。 基本的にアパレル企業っていうのは汚染者ですから、環境に影響の少ない素材を使用したり、開発することはメーカーが果たすべき責任だと考えています。

▼山田:
パタゴニアというと、今日私が着ているダウンジャケットが有名な気がしますが。

▼辻井:
そうですね。
ダウンというのはガチョウなど水鳥の首から胸の辺りにかけての毛で、ここが一番暖かいんですよ。一番安く採る方法は、鳥の毛を生きたまま毟るライブプラッキングという手法です。パタゴニアではこうした手法ではなく、副産物としてありがたく食用として命をいただいたものだけからダウンを作るようにしています。

▼山田:
ミッションとはいえ、自分たちが作っていたものをもうつくらない、といえるのはとてもすごい決断だったと思います。有名な「DON’T BUY THIS JUCKET」の標語を見たときには、真摯に課題に取り組むのはこういうことかと、感銘を受けたのを覚えています。
こだわりの二つ目を教えてください。

働く環境の改善

働く環境の改善

▼辻井:
二つ目のこだわりは、パタゴニアの製品作りにかかわる方々の労働環境や待遇を改善すること。
僕たちは自社工場を持っていません。例えば縫製工場は世界中、色々なところと取引をしています。一般的に、アパレル業界のサプライチェーンは非常に複雑で、いろんなことが起きてるんです。珍しいですよ、ファクトリエみたいに全部分かるところって。

▼山田:
それが今アパレルが抱える一番大きな問題ですね。

▼辻井:
2013年にバングラデシュのダッカの郊外にあった縫製工場で起きた事故の話はご存知ですか?8階建ての縫製工場にミシンが4000台ほど設置されていて、縫製労働者の多くが17歳から21歳の女性だったそうです。ところがこのビルは5階から上は違法建築だった。2013年4月23日に、建物に入ったヒビを見た労働者達はもう働きたくないと訴えた。その時、工場長は「いいよ。その代わり4月分の給料は払わないから」と言ったという記事を海外のニュースソースで目にしました。
ここで働いていた方の時給は14セント、高い人で20セントだったそうです。給料をもらえないと食べていけない、子どもも育てられない、だから仕方なく翌日には3000人以上の労働者がいやいや建物に入った。そして、5階から上が崩落、1138人の方が犠牲になったわけです。ここで製品を作っていたのは世界でもTOP10に入る有名なファストファッションブランドでした。

▼山田:
痛ましい事件だったので、私も覚えています。 こうなってくると、ブランドって何なんだろう、ってなりますよね。 自分たちの作っているものがどこで作られているかわからない、そして誰かが犠牲にならなければ成り立っていないわけですから。

▼辻井:
僕はこの事故のニュースを見たときに、自分の消費行動は投票みたいな意味を持つんだな、買うということは遠くの誰かに影響がある可能性があるな、考えなきゃいけないんだなとすごく思いました。この事故の様子はトゥルーコストという映画でも取り上げられています。
そういうことがあるので、パタゴニアはどこで作っているかをネット上で公開しています。ただ僕たちは100点満点の工場とだけ取引するのではなくて、今は70点かもしれないけど改善の可能性がある工場と取引をすることで、改善の輪を広げていこうという考えでビジネスを行っています。ベトナム、バングラデシュ、インドやメキシコ、中南米にも取引をしている工場があるんですが、本社の環境社会責任チームが、本当に細かいところまで監査や指導をしています。

▼山田:
具体的にどのような取り組みをされているんですか。

▼辻井:
例えば、改善策の一つにフェアトレードという仕組みの導入があります。フェアトレードUSAという団体が、基準を満たした縫製工場に認証を与え、その縫製工場で作られた製品にもタグがつけられます。パタゴニアでは、現在、200スタイル強の製品が認証を受けた工場で縫製されています。
フェアトレードを導入すれば、例えばパタゴニアが一定の発注をした場合、それに上乗せしてプレミアムという賃金を払うことによって少しでも生活賃金に近づけるもしくは有効に使ってもらうということができます。ユニークなのは振込み先です。プレミアムは、働いている人の口座に直接振り込まれるので、縫製労働者たちは、そのお金を使って何をするかを自由に話し合える。
もちろん、フェアトレードにはいろんな批判もあって、完全じゃないかもしれない。でも、何もしないでほっとくことのリスクよりは、何かをして間違ったらなおす、また間違ったらなおす、を繰り返していくリスクの方が小さいなと個人的には思います。 フェアトレードもそういうことかなと。

▼山田:
そうですね。お金は工場に入ってしまうので、そこで働く方たちにしっかりと渡る仕組みはとても重要だと感じます。

ビジネスを通して、社会を良くする

ビジネスを通して、社会を良くする

▼辻井:
まずはパタゴニアがやっていることを大きな企業にも知ってもらえたらいいなと思っています。大きな企業がやればインパクトがありますから。 そのために売り上げはすごく大事です。いいことを言っているのにうまくいっていないと、ただエキセントリックな会社だなで終わってしまいます。
ビジネス的に成功してれば、様々な企業が関心を持ってくれるんですね。例えば、世界中でオーガニックコットンの使用率はいまだ1%未満です。増えないですよね、なかなか。でも、影響力のある大企業が使い始めると、その比率も変わってくるはずです。僕たちは、不必要な環境負荷を減らしながらサプライチェーンの人権や労働環境に配慮するという方法を通じてビジネスを行いながら、それを手段として環境問題を解決することに貢献したいと考えています。
僕たちがビジネスを使って、例えばコットンのケースのように問題を多くの方々に伝えることで世の中に警鐘が鳴らされて、自分たち自身でも解決に向けて努力をすることが大切です。

▼山田:
まさにそう思います。そもそもコットンに枯葉剤を使っている農場があるなんて言うことを知っている人自体がほとんどいなかったと思うんですよね。 一方で、ビジネスと環境のバランスをどう考えていますか?

▼辻井:
これはイヴォンがいつも僕たちに言ってくれる言葉なんですけど、パタゴニアでは仕事が終わってから環境保護をやるんじゃなくて、ビジネスをやっている理由が環境保護だと。イヴォンは本当に有言実行の人なんです。 僕たちが目指しているのは、日本風に言えば「買い手よし、世間よし、売り手よし」の三方よしに「作り手よし、未来よし」が入るような世界の実現です。

▼山田:
そういう「だれも泣かない」時代が来るといいとは思うんですけどね。そのための啓蒙はしていきたいとは思っています。現実との折り合いで難しいと思うことがありますよね?

▼辻井:
さっきお話したとおり衣類を作ること自体が汚染ですから、毎日が矛盾との戦いです。でも、ミッションを念頭において最善の選択肢を取ることが大切だと思うんですよ。矛盾があるからといって何もしなければ状況は改善しませんから。

▼山田:
ファクトリエも工場に利益をという社会性と、一方でビジネスをという資本主義の両輪をきちんと回していかないといけないと思っています。 その中で、ここまでやったらファクトリエらしくない、とかをいつも模索していますね。そして今ファクトリエが何をできるのかと常に考えています。
ビジネスで成功するからこそ、アパレル業界でも儲けられると思ってもらえれば、同じことをしてもらえて、結果的に業界が変わればいいと思っています。 そうすることでモノづくりが復活し元気になっている、100年後の未来を見据えられるのではないかと。

辻井さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!

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