STORY(特別対談企画)
関谷英里子(同時通訳者、日本通訳サービス代表)
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ファクトリエ代表・山田敏夫
-関谷英里子(同時通訳者、日本通訳サービス代表)
大学卒業後、商社、化粧品メーカーを経て、同時通訳サービス会社を起業。アル・ゴア氏など一流講演家での同時通訳実績が多数。NHK ラジオ「入門ビジネス英語」講師を務め、テレビ出演、執筆活動も精力的に行う。2014 年 7 月より米国スタンフォード大学ビジネススクール留学。
※本記事は、2014年に執筆したSTORYでの対談内容を再編集してお届けしています。
▼山田:
今日は、著名人のカンファレンスなどにおける同時通訳や、番組のパーソナリティとして活躍され、著書も多数お持ちの、関谷英里子さんにお話を伺います。先日は、IVS(※1) でありがとうございました。いらっしゃるとは思いませんでした。
※1:Infinity Ventures Summit(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)。国内外のIT企業経営者を対象としたカンファレンス。http://www.infinityventures.com/
▼関谷:
私も、山田さんがいらっしゃるとは知らなかったです(笑)。Launch Pad(※2)も、登壇者が誰なのかは、直前にならないとわからないんですよ。
※2:IVSの中で、スタートアップ企業が、自社の製品やサービスをプレゼンテーションするプログラム
▼山田:
そうなんですか。確か、あのプレゼンは朝7時頃からリハーサルが始まるので、それよりも早くから準備されるんですね。ファクトリエは、4位という悔しい結果でしたが、あのようなプレゼンをさせてもらえたのは、貴重な機会でした。もうすぐ留学されるとお聞きしています。直前のお忙しい時期に、ありがとうございます。本日はどうぞ宜しくお願い致します。
同時通訳は、プレゼンターの声となり、“信条”を伝える仕事
▼山田:
関谷さんは、本当に幅広い分野でご活躍をされていますね。名だたる方々の講演や、経済用語が飛び交うような、高度なカンファレンスでのお仕事を数多くお持ちですね。先日ご一緒したIVSでは、遺伝子関連の話題も多く、難しかったんじゃないですか?そのような、とてもチャレンジングな仕事をされる中でのこだわりや、大切にしていることなど、教えて頂けますでしょうか。
▼関谷:
私は、ひとつひとつの仕事を丁寧に行う、という基本的なことを徹底しています。カンファレンスで通訳を聞いていらした方からご依頼をいただく、ということも可能性としてあるので、ひとつひとつの仕事が次の仕事のプロモーションにもなるからです。通訳というのは、スピーカーが伝えたいことを、実際にお客さまの耳に届ける「声」になるので、情報収集はとても大事です。そのテーマについて長年研究されていたり、仕事をされていたりする専門家の方とまったく同等の知識レベルに到達するのは難しいですが、内容を把握した上で「どんな思いをお持ちなのか」「大切にしてきている信条は何か」という気持ちの部分については、特に丁寧に調べ、理解するように心がけています。
▼山田:
なるほど。同時通訳というと、とても難しい仕事という印象があるので、テクニック重視のお仕事だと思っていたのですが、気持ちの部分をとても大事にされているんですね。特に、先日のIVSなど、僕らのようなベンチャーがプレゼンをする場面では、事実や成果だけでなく、今後どのような未来を目指しているのかという、思いを伝えたいので、そのように考えて通訳して下さっていたというのは、とても嬉しいです。
▼関谷:
もちろん、技術的なトレーニングは必須だけれど、ある程度練習が進んだ後は、思いをいかに伝えられるかが大事です。スピーカーはもちろん、聞き手への理解も必要ですね。専門的な集まりであれば、専門的な言葉、一般的なお客さまが多ければ、できるだけ平易な言葉に訳します。私は、「人間は言葉を介してでしか思考することができない」と思うんです。話す人は、伝えたいことや相手に考えてほしいことがあるから、キーワードにして発しています。そうして生まれるキーワードは、大事にしなくてはいけないですよね。
▼山田:
会話のキャッチボールの中で、考えが深まって行くということも、ありますよね。以前受けられたインタビューを拝読したのですが、幼少の頃にイギリスに渡航された経験が、人間的なバックグラウンドとなって、今の関谷さんの通訳のスタイルを形作っていると感じました。
大きな絵と、それが如何に楽しいのか、を伝えられれば、
もっと人を動かすことができる
▼関谷:
商社で働いたことも、貴重な経験になりました。海外ブランドの日本市場でのブランディングをしていたのですが、国内外のチームメンバーとビジョンを共有しながら、プロジェクトを進めて行く際に、言葉の力を感じました。そのような仕事を通して、自分の得意なことで人が喜んでくれることをしたいという思いがだんだん出てきましたね。日本人は、英語が理解できれば、もっともっとインスピレーションを得られるようになるのに、と思っていて。最終的には、自分で意思決定をしたいという思いで、起業しました。
▼山田:
僕も、チームメンバーにどのような言葉をかけるかは、常に考えています。ボランティアや業務委託のスタッフが多いこともありますが、気を使いすぎて、上手く目的や、やってほしいことを伝えられなかったりして、試行錯誤です。
▼関谷:
なるほど、もしかしたらそれは言葉だけの問題じゃないかもしれないですが・・・(笑)。何を目指しているのか、という大きな絵を描くことと、山田さん自身がそこに向かって行っている姿勢を如何に見せられるかじゃないでしょうか。自分の想いわがままになって、そのすごさ、面白さを体現して見せる。まずは事業がしっかりテイクオフして、実績に結びつくことが必要ですね。そうすれば、自信を持って魅力的に、ビジョンを示せるようになる。
▼山田:
そうですね。頑張らないと・・・
忙しくて慌ただしく過ぎてしまうから
「この1年間は何をする」と決めてやりきる
▼山田:
間もなく留学に行かれますが、今後はどのようなチャレンジをされる予定ですか。
▼関谷:
いろいろ迷ったのですが、ビジネスパーソンとしての自分の弱点を克服するために、今留学することを決めました。私のキャリアは、営業、マーケティング、起業と、現場で叩き上げと実践を積み重ねてきました。特にここ4年くらいは、今までやってきたことを元にアウトプットすることが多かったのですが、このままだと、今の自分のキャパシティを大きく超えるようなことは出来ないと思ったんです。あえて今まで避けてきた、理論的・体系的に学ぶことをやって、1年という短期間ですが、インプットしてきます。
▼山田:
そのような挑戦をするときに、英語が話せると、言葉の壁がなくて良いですよね。
▼関谷:
そうですね、言葉の面はとても恵まれていると思います。起業家の方は、英語が話せるようになると、本当にチャンスが広がりますよ。
▼山田:
僕も、ビジネスパーソンとしては、たくさん挑戦しないといけないことがあります。まずは、ファクトリエを、しっかりと地に足のついたひとつのサービスとして作り上げて行きたい。今まだ当たり前のことができていないので、基本を丁寧に。日本の工場の再活性化ということだけを考えれば、工場をネットワーク化するとか、色々なやり方があると思うんですが、ファクトリエは、システム化やインフラ化、みたいな仕組み作りよりも、良いものを1個1個送り出す方が合っていると思っています。
▼関谷:
進む方向を決めたなら、あとはやるべきことに集中すると良いですね。会社を始めたばかりの時は、私もそうでしたが、何でもやらないといけない気がしてくるんですが、やるべきことにフォーカスするのはすごく大事。何でもやってしまうと、忙しすぎて、ひとつひとつがタスク的にこなす仕事になってしまうんです。何かをやらない、という決断も大事ですよね。あと、私は「この1年間はこれをやる」というのを決めるようにしています。どうしても日々忙しいと目の前のことで時間が過ぎて行ってしまうけど、1年間のやるべきことをひとつ決めて、それをほかのことよりも優先して取り組んで、達成するようにしてれば、確実に前進できるんです。私の場合、それが今年は留学だったんだけど。
▼山田:
なるほど、そうですね。なかなか忙しくしすぎてしまって・・・先週首のヘルニアをやってしまって、結果的に仕事をペースダウンすることになりました。自分のやるべきことをちゃんと見極めろ、というサインかもしれないと思っています。関谷さんは、お忙しいのに、いつもシャキッと素敵ですね。何かリフレッシュなどされているんですか?
▼関谷:
山田さんはきっと、頑張れちゃうんだろうけれど、「できるから全部やる」ではなくて、やるべきことに集中するために、早めに音を上げることも必要かもしれませんね。私は、やはり睡眠をとても大事にしています。必ず6時間は確保して深い眠りについて、翌日に疲れを残さないようにします。
▼山田:
なるほど。本当に、体は資本だと痛感しているので、僕もこれからは気をつけます。本日は貴重なお時間をありがとうございました!