「ミシュランシェフ」が体現する世界と戦う術 -パリで起きている40年ぶりの日本リバイバル-

19歳で地元・熊本のフランス料理店でキャリアをスタートさせ、26歳からはフランスを拠点に活動を展開している手島竜司さん(写真:手島さん提供)

現在、フランスの食シーンは、コムデギャルソンやヨウジヤマモトなどのブランドが席巻していた1970年代のアパレル業界に似ていると言われています。

業種は違えども、ミシュランガイドにおける星の数の合計が「日本人>フランス人」になっている現在と見比べたとき、“日本人がマーケットを賑わせている”という点で共通しているのです。

フランス高級料理店『PAGES』のオーナーシェフを務めている手島竜司さんも、パリで活躍している日本人の 1人。2014年に店をオープンし、わずか1年半でミシュラン一つ星を獲得するという快挙を成し遂げました。

手島さんが思う日本人だからこその強み、そして課題とは何なのか。世界最前線での戦い方を、ミシュランシェフに学びました。

和のフィルターはかけない

『PAGES』は日本人観光客が対象ではなく、お客様の9割がフランス人です。フランス人のシェフを擁する店舗も多い中で、舌の肥えた現地の人たちが手島さんの店を選んでいます。日本に当てはめると、外国人の握るお寿司を食べに行くような感覚でしょうか。手島さんはフランス産の食材だけを使用しており、醤油やみりんといった調味料ですらも、和の要素を一切取り入れていません。

手島さんはこう語ります。

「和のフィルターをかけてフレンチを解釈すると、確かに差別化を図ることはできます。しかし、母国の強みを活かせば有利になるのは当たり前のことですし、目新しいものが必ずしもいいとは限りません。

ものづくりや文化において偉大なことは、新しいものを外から持ってくるのではなく、これまでにあるものに対して、違う切り口から光を当てることです。私は地産の食材とフランス料理の歴史を理解し、その文脈の上で切り口を変えながら、フランス人と同じ土俵で戦っています」

(この状況をいつかひっくり返してやる。そう思いながら一心不乱に修業を続けたそうです)

異国の地で戦うことは決してたやすくはありません。

手島さんも渡仏の際にはビザを取るのに一苦労し、フランス高級料理店で修業を積んでいるときには「日本人を表に出してはいけない。お客様から隠そう」という差別を店側から受け、ゴミ箱の陰に身を潜めなければならないこともあったそうです。

同じような境遇に置かれる人たちも多い中、日本人シェフのポテンシャルはフランスで徐々に花開いていきます。

従来の日本料理界では、蕎麦職人はとにかく蕎麦の道を究めるというように、長所を伸ばそうという考え方が主流でした。

一方、フランス料理は中級から最高級までにランクが分かれており、いろいろなジャンルのメニューを幅広く創作するスキルが求められます。

1つの道を究めることが美徳とされてきた日本人には不向きのように思えますが、勤勉さと繊細な感性を持っている日本人は、実はフランス料理への適性を備えていました。

日本人の気質が料理づくりに活かされている

手島さんは「日本人の感性は世界一」だと言います。

感性は言葉の数に比例すると言われており、日本人は、ひらがな・カタカナ・漢字といった異なる表記を自然に使い分けています。語彙の数は5万語以上で、英語の3倍。言葉での直接的な自己主張が重んじられる欧米に比べ、日本では言語として表れない余白や間(ま)に対しても敬意が払われています。

それだけを取り上げて日本人の感性のほうが繊細であると短絡的に決めつけるわけではありませんが、機微に触れようとする気質は間違いなく持っています。

今多くの日本人シェフがパリで活躍しているのも、その気質が料理づくりに活かされているのです。

1%の天才と99%のバカ

しかし、ある一定のところまでは感性で通用するものの、それだけでは世界トップクラスを目指すことはできないと手島さんは語ります。

「日本人はどんなメニューでも 70~80点の料理は作れますが、100点の料理は作れません。なぜなら、0から1を創ろうとしないから。フランスは違います。100点を取るべく、みんなが 0から1を創ろうとしている。フランスの料理人は、“1%の天才と99%のバカ”でできているというのが、私の所感です。

私はあくまでも100点を目指したい。そのためには自分だけのアイデンティティを確立させること、つまり突き抜けることが大事だと考えています。“全体的に悪くないけど、どこどこの店に似ているよね”とは思われたくありません。どんな料理を出しても、PAGESっぽいと思われるような、自分の店でしか味わえない体験を提供したいのです」(手島さん)

手島さんが食材を研究する理由

オリジナリティを追求するために、手島さんはオーナーシェフを務めるかたわら、高級精肉生産元や高級生鮮食品卸会社などで食材を研究されています。目的は、自分が知らないことを補完するためです。

海外からは「日本人シェフは魚が得意だけど肉は苦手」というイメージを持たれており、事実、手島さんも肉のことをあまり知らないというコンプレックスを抱えていました。

日本では部位がパックされた状態で売られることが多いため、本当においしい場所を自分で見極めながら肉を切り取る機会はそうありません。

「和牛だからこの部位はきっとおいしいだろう」という前提も、海外では無根拠として扱われます。肉が苦手なら肉を学ぶ、包丁の研ぎ方がわからなければ包丁を学ぶ。そうして自分の弱点を埋めることが、オリジナリティあるメニューづくりを支えていると言います。

守りの姿勢は一切取らない

料理をどう見せるかだけでなく、自分をどう見せるかという発想も求められます(写真:手島さん提供)

飲食店は、おいしい料理を提供するだけでは繁盛しません。

ミシュランで星を獲得した店であっても同じであり、むしろ興味本位で訪れるお客様の来店が増えることで客単価が落ち、結果として売り上げが下がることもあります。

フランスでは「売り上げを稼いでこそプロ。それは一流シェフでもあっても変わらない」という考え方があり、店のブランディングやPRもシェフが手がけるべきだとされています。

手島さんも、他の店をプロデュースしたり、ブランドとコラボレーションしてお土産を作ったりと、さまざまな活動に力を入れています。

将来的には、キッチンが客席内にレイアウトされたお店や、シェフの養成学校などの立ち上げも計画しているとのこと。

描いているビジョンも従来のシェフ像から突き抜けています。

“突き抜ける大胆さ”を示す良き手本

「作った料理をそのままシェフが渡せる店があってもいいと思うし、シェフを目指す人が少ない時代だからこそ本物を育成したいとも思う。自分が思ったことにはできる限りチャレンジしたいですね。守りに入りたくはありません。

リスクはありますが、万が一お店がなくなってしまっても大丈夫です。だって、ゴミ箱に隠れていた時代だってあったんですから。また這い上がりますよ」(手島さん)

もともと持っている感性に、“突き抜ける大胆さ”が加われば、世界の最前線に立つ日本人はさらに増えていくはず。

良き手本として突き抜け続ける手島さんのアクションに、今後も注目していきます。

※本記事は、東洋経済オンラインにて執筆したものを一部編集してお届けしています。

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